大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)1146号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨第一点及び第五点について。

原審は、被上告組合が本件家屋を占有する正権原を有せざるものと認定したのではなく、組合は譲渡した賃借権をもつて上告人に対抗しうると判断したものである。そして組合は本件訴訟の当事者となつており、原審の認定したところによれば、右組合はいまだ清算中であり、組合と被上告会社との間に別に本件家屋の使用区分を定めていないというのであるから、原審の右判断は正当である。原判決には所論のような違法は認められない。

同第四点について。

民法六一二条二項が、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合、賃貸人に解除権を認めたのは、そもそも賃貸借は信頼関係を基礎とするものであるところ、賃借人にその信頼を裏切るような行為があつたということを理由とするものである。それ故、たとえ賃借人において賃貸人の承諾を得ないで上記の行為をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人は同条同項による解除権を行使し得ないものと解するを相当とする。しかるに本件においては、原審の認定した事実関係の下においては、賃借権の譲渡に関する諸般の事情は、まさに上記賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情と認めうるのであつて、従つて本件の場合に、原審が民法六一二条二項による解除権の行使を認めなかつたことは正当である。論旨は理由がない。なお論旨中判例違反をいう点は、判例を具体的に示さないから不適法である。

その余の論旨は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であつてすべて、「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(論旨第六点にいう賃借権不存在確認の請求については、原判決が何ら判断をしていないことは所論のとおりである。しかし、右の部分は民訴一九五条一項によりなお原裁判所に繋属しているものというべく、上告人は原裁判所に期日指定の申立をし追加裁判を求める途がある。従つて、右の違法は本件原審の判決の結果に影響を及ぼすものではない。)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例